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e-Estonia:「国」の概念を覆すエストニアの壮大な電子国家戦略

藤沼

世界で最も政府の電子化が進んでいる国、エストニア。2018年1月に安倍首相も訪れ、メディアでも取り上げられる機会が増えつつある国です。

今回はエストニアをテーマに「どの様な電子サービスが提供されているのか?」「電子国家戦略の真の目的は何か?」といった内容をご紹介します。また、今後はエストニアが提供する電子居住権「e-Residency」を私(藤沼)が実際に申請・取得した事についてもご紹介する予定でおります。

どんな国なのか?

エストニアは北ヨーロッパに位置するバルト三国のひとつであり、面積は九州より少し大きく人口は約130万人(沖縄県よりやや少ない)の国です。他のヨーロッパ諸国と同様、歴史的にはソ連(およびロシア帝国)やナチス・ドイツの占領下・支配下にあった経緯があります。ビジネスではIP通話サービスの先駆けとも言える「Skype」を輩出した国でもあります。

どんなサービスが電子化されているのか?

e-Estonia公式サイト https://e-estonia.com/solutions/ より引用

99%の行政サービスが電子化されており、紙が必要なのは「結婚」「離婚」「土地売買」だと謳われています。電子化されているサービスや取り組みの具体例は以下の通り。

身分証明/署名

e-identity:読んで字の如くですが、国民一人ひとりに予めIDが割り当てられており、このIDを中心に各種サービスを利用したり、電子署名を行うことができます。基本的にはIDカードが配布されますが、Mobile-IDSmart-IDというサービスを使うとIDカードを使わずにモバイル端末を用いて認証・署名を行うこともできます。

医療/ヘルスケア

e-Health Records:国内の全ての病院における診察結果は電子的に記録され、システム上で統合的に管理されています。これにより医師は患者の過去の診察内容や処方履歴、X線撮影画像、アレルギーなどの情報を閲覧し、適切な診察を行うことができます。一方、患者はPatient portalというサイトを通して診察の予約を行ったり、自身の診察履歴を閲覧することができます。

e-Prescription:処方箋も電子化されています。これにより患者は薬局でIDカード(或いはMobile-ID, Smart-ID)を示すだけで薬を受け取ることができます。

また、エストニア政府はより高度な医療サービスの実現のために国民のゲノム情報を収集・分析する取り組み「Estonian Genome Project (Estonian Biobank)」を進めているのですが、2017年3月時点で52,000人分の遺伝子地図が収集されているそうです。

教育

e-School:出欠確認、成績確認、宿題および連絡事項の伝達といった事が電子化されています。また、教師と親の間でコミュニケーションを取るための機能も整備されています。e-Estonia公式サイトによると、既に85%の学校がe-Schoolの仕組みを利用しているそうです。(参考動画

閣議

e-Cabinet:閣議も電子化による効率化が図られておりペーパーレス化を行っています。また「議題と内容は事前に共有し、異論がなければ議論を省いて意思決定を行う」というプロセスが取られています。こうした取り組みにより、4-5時間掛かる閣議が30分程度にまで短縮されたと謳われています。(参考動画

選挙投票

i-Voting:日本ではなかなか本格的な導入・普及が遠い印象の電子投票ですが、エストニアでは世界に先駆けて2005年に地方選挙にて導入し、続けて2007年には国政選挙にて導入しました。投票者の約30%がi-Votingを利用しているそうで、ペネトレーションとしては一見低くも見えますが、約3人に1人が電子投票を利用している状況はやはり驚きです。

法人登録

e-Business Register:法人登記をオンラインで行うことができるだけでなく、作業にかかる時間が僅か18分ほど謳われています。この時間は実際にやってみないとにわかには信じがたいですが、その他に必要な作業(法人口座の開設など)を含めても、圧倒的に早い事は間違いないでしょう。

その他、税金申告(e-Tax)や警察(e-Police)など様々な電子化の取り組みが行われています。

個々のサービスに関して言えば、日本や他の国でも一見似たようなものはあります。ただ、これらが全て1つのIDに統合され、関連性のあるサービスがITシステム上で相互連携し、かつ全国規模で展開されている事は非常に大きな違いです。これらの取り組みを2000年頃から始め今も進化し続けていることは驚異的と言っても過言ではないでしょう。

エストニアの電子国家戦略の真の目的はなにか?

では一体なぜエストニアは他国に先駆けて電子国家戦略を遂行し、かつ成功を収めているのでしょうか?「コスト削減」「業務効率化」などの言葉を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。確かに今挙げたものも期待する効果であり、我々も日本でよく耳にするものです。実際に「電子署名によりGDP比で2%のコスト削減ができた」旨の発表が前首相のTaavi Rõivas氏のコメントファクトシート(PDF)でなされています。

しかし真の狙いは「国家の存続」であると、エストニア政府CIO(最高情報責任者)であターヴィ・コトカ氏は語っています。冒頭に述べたように、バルト三国の中でも最も小さいエストニアは、長年に渡り強国の占領下・支配下にありました。旧ソ連に併合されてから50年経った1991年に独立を果たしたエストニアが次なる脅威への備えに描いた構想が「物理的な制約に依存しない国家の構築」であり、それを実現する手段がIT(情報技術)だったわけです。

e-Estonia公式サイト https://e-estonia.com/

「電子居住権」と「データ大使館」により領土という概念すら払拭する

2014年にはe-Residency(電子居住権)という仕組みの提供を開始します。これについては個別のテーマとして後日取り上げますが、簡単に説明すると(エストニアから見た際の)外国人に対して提供している施策であり、この権利を得る事でエストニアの「電子居住民」になれるというものです。国籍を取得できるわけではなく、エストニア国民と全く同じサービスを享受できるわけではありませんが、一部の社会サービスを受ける事ができるようになります。

そして今年2018年、エストニアは世界初のData Embassy(データ大使館)をルクセンブルグに開設します。これはどういう事かというと、エストニアが保有するデータを世界中にレプリケート(=複製・同期すること)しておくことで万が一エストニアが物理的な攻撃により国内のデータセンタが破壊されたり、領土そのものが壊滅的な状況に陥ったとしても、Data Embassyにあるデータや先に述べたサービス/仕組みを活用することで電子的に国家として存続できるようにする事が狙いです。

e-Estonia公式サイト https://e-estonia.com/estonia-to-open-the-worlds-first-data-embassy-in-luxembourg/ より引用

Data Embassyは要はクラウドな訳ですが、国家レベルでやってしまおうというのはある意味究極のBCP(事業継続計画)ではないでしょうか。なお、エストニア政府が発行するファクトシートにはセキュリティ対策のためにブロックチェーン技術を取り入れている事が書かれています。

さて、最後に一本の映像を紹介します。エストニア政府のAnna PiPeral氏が日本のセキュリティカンファレンスであるCODE BLUEで2016年に基調講演を行った際の映像です。Data Embassyのところから開始するようにしていますが、約50分に渡りエストニア政府の人間がe-Estoniaの取り組みを紹介している映像は貴重ですので、興味ある方は全てご覧頂くと良いと思います。(余談ですが2016年のCODE BLUEには私も見学に行きました。とても面白いイベントですので、セキュリティに興味のある方は一度参加することをお勧めします。)

なお、プレゼン資料はSlideshareにアップされています。

SFの世界の様にも思えますが、これが実際に世界最先端を行く国で行われていることなのです。

テクノロジーが発達した未来の世界において「国」とは一体どういった概念になるのか、考えさせられた方もいらっしゃるのではないでしょうか?私もその一人です。

では後日e-Residencyについて実際の申請手順も交えながらご紹介します!

【追記】
以下の続編を公開しました。合わせてご覧ください!

エストニアの電子居住権「e-Residency」とは?

エストニアの「e-Residency」を取得してみた(申請編)

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