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「動画・SNS使い放題」と「ネット中立性」「通信の秘密」の問題

藤沼

前回「5G」について纏めた際にコンテンツサービスの普及と共にモバイルネットワークも進化を遂げてきた、という話を書きました。今回はこうしたインターネットサービスの競争の過程で生まれ、長年に渡り議論が続いている「ネット中立性」という問題について主に取り上げます。

動画・SNS使い放題プランの普及

MVNO(いわゆる格安SIM)の利用を検討された事のある方であれば「主要なSNSが使い放題!」といった謳い文句で提供されている料金プランを見かけたことがあるでしょう。昨年にはMNOのソフトバンクが多くの主要な動画・SNSサービスの使い放題を謳う料金プランの提供を開始し、若い世代を中心に話題になりました。厳密にはソフトバンクの施策は「ギガ使い放題キャンペーン」が適用され、9月末までは対象サービス以外を含む全てのデータ通信をカウントフリーとしています。

「使い放題」は「カウントフリー」や「ゼロ・レーティング」と呼ばれ、特定のコンテンツやサービスに対する通信で発生するパケット通信を使用データ量のカウント対象外とする、というものです。厳密には「カウントの対象外とする」のが「カウントフリー」であり、「パケット単価をゼロとみなす」のが「ゼロ・レーティング」だとされているのですが、今となってはほぼ同義のものとして使われている印象があります。

総務省: ネットワーク中立性に関する研究会(第7回)資料7-1より抜粋
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/network_churitsu/02kiban04_04000245.html

こうした施策は移動体通信事業者(携帯キャリア)やインターネット・プロバイダの顧客獲得競争における「見せ玉」として、日本のみならず欧米でも広く用いられてきました。アメリカの大手携帯キャリア大手であるVerizonやT-Mobileなどでは、2015年〜2016年にかけてコンテンツプロバイダとの協業による動画配信サービスに注力する動きが強くあったのですが、こうした動きと併せて料金プランの改定やゼロ・レーティング対象サービスの拡充の競争が激しく行われていました。それに少し遅れる形でこの流れに追随してきたのが、今の日本のモバイル業界だと私は捉えています。

さて、こうした「使い放題」サービスはユーザにとって喜ぶべきものなのでしょうか?あるいは、ビジネス構造を俯瞰してみた場合に健全な競争に繋がっているのでしょうか?

実際のところ「YouTubeが見放題なんて便利!」という印象を抱くユーザも多いのですが、この後に述べる「ネット中立性」や「通信の秘密」ということを考えると、そこには様々な問題があることが分かります。

ネット中立性の問題

英語では”net neutrality”と呼ばれるこの言葉は、2003年にバージニア大学の助教授であったTim Wu氏の論文“NETWORK NEUTRALITY, BROADBAND DISCRIMINATION”にて提唱されたものです。一般的には、「インターネットサービス事業者や各国政府は、インターネット上のコンテンツ等の全てのデータを平等に扱うべき」とする考え方の事を指します。

Tim Wu氏の論文より抜粋
http://www.jthtl.org/content/articles/V2I1/JTHTLv2i1_Wu.PDF

ネット中立性に関して広く注目を浴びた事例としては、2005年頃にアメリカのあるISPがユーザの同意なく特定の通信を意図的に制限したり遅くしている事(スロットリング)が明るみになった事が挙げられます。過去の細かい経緯についてこの記事では割愛しますが、その当時は「ユーザに意図せず通信を制限すること」が「ネット中立性に反している」として議論がなされてきた訳です。

さて、話を「使い放題」サービスに戻しましょう。「使い放題」サービスは、特定のコンテンツやサービスに対するユーザのアクセスを直接的に制限するものではありません。しかしながら、「特定のサービスへのアクセスを優遇している」ことから「他のコンテンツやサービスへのアクセスが起こりにくい状態を間接的に引き起こしており、これはネット中立性を損なう懸念がある」と捉えることもできます。こうした状況が加熱すると独占的・優先的な立場にあるプレーヤーが競争上優位となり、中長期で見た場合に健全な競争をそこねるリスクもあるといった旨の指摘がされています。

総務省: ネットワーク中立性に関する研究会(第6回)資料6-3より抜粋
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/network_churitsu/02kiban04_04000242.html

通信の秘密の問題

別の観点でも懸念が指摘されています。こうしたゼロ・レーティングは「Deep Packet Inspection(DPI)」と呼ばれるパケットフィルタリング技術を用いて通信におけるパケットのデータ部を含めたチェックを行い、ゼロ・レーティングの対象かどうかの判断・制御を行っています。

一方で、日本国憲法や電気通信事業法には「通信の秘密を侵してはならない」といった旨の記載があります。通信業界では通称「通秘」と呼ばれるこの観点は、電気通信事業者であれば誰しもが慎重になるポイントです。何かしらの開発をする際に「通秘に抵触しないか?」「契約約款とのギャップがないか?」という目線での議論を私も何度か経験した事があります。

とはいえ、言わずもがなですが、顧客の同意が取れている場合やその他の違法性阻却事由がある場合(正当業務行為や正当防衛と見做される場合など)は「通信の秘密には抵触していない」と見做され問題にはなりません。(これすら違反だとなると、迷惑メールフィルタやファイヤーウォールなども提供できなくなってしまいます。)

こうした背景から「ゼロ・レーティングが通信の秘密に抵触する可能性があるのでは?」という見方もあるのです。事実、「事業者がユーザに対してどこまで明確な説明を行う必要があるのか」「何をもって同意を得たと見做すのか」等の明確なガイドラインが定まりきっていないのが実情であり、そうした背景もあってNTTドコモとKDDIはゼロ・レーティングの導入に慎重な姿勢をとっています。

まとめ

総務省は昨年10月から「ネットワーク中立性に関する研究会」という研究会を立ち上げ、ゼロレーティングサービスのルール策定に関する議論もこの中で行われています。また、今回のテーマとは別の話になりますが、並行して議論が進められている料金プランにおける「通信と端末の完全分離」に伴い、2019年度上半期には料金プランの刷新が行われると見られています。当然、料金プラン設計の際にはゼロ・レーティングの提供も視野に入れた形での検討がなされるはずですので、今後も議論の動向に注視したいと考えております。

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